プリンセッション・オーケストラ第33話感想|凍てつく心と姉の重荷

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プリオケ第33話は、みなも(リップル)とりり(ピュリティ)の対話の失敗を通して、善意と拒絶が噛み合わない痛みが露呈した回でした。

一見「正論のぶつけ合い」に見える場面の裏では、みなもの未熟な善意と、りりが抱える深い傷が互いを傷つけ合う構造が浮かび上がります。

さらに、りりの姉・すみれの「だって、私はお姉ちゃんなんだから」という独白は、姉という役割に自分を縛りつけて心を保つ危うさをにじませました。

今回の記事では、この3人の「噛み合わなさ」の理由を丁寧に紐解き、それぞれが抱える痛みと葛藤の輪郭を探っていきます。

表面上の衝突の奥で何が起きていたのか――33話をもう一段深く読み解きます。

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みなもの善意と「善良な傲慢」

第33話で最も強く印象に残ったのは、リップルがピュリティに投げ返した

知らないに決まってるじゃない! あなたが伝えようとしてないんだもん!

引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第33話


という言葉でした。

この台詞は、ピュリティの「何も知らないくせに、よくも言います!」への応答ですが、そのズレこそが、みなもというキャラクターの本質を映し出すものになっています。

善意の人だが、相手の心に寄り添う力が弱い

みなもは基本的に、「頑張っている人を応援したい」「困っている人の力になりたい」という善意の人です。

しかしその一方で、相手の心理を読むのがあまり得意ではないタイプ。

距離感を掴むのも苦手で、好意ゆえに踏み込みすぎてしまうことがあります。

彼女の善意には、「自分の善意は相手にも嬉しいはず」という無自覚な前提があるため、相手の拒絶を拒絶として受け止めることができません。

りりの「何も知らないくせに」は追い返すための拒絶

ピュリティの「何も知らないくせに」は、傷を触られたくない、踏み込まれたくないという「明確な拒絶」です。

いわゆる「察して」ではなく、余計なことをするな、近寄るなという意味。

ここでリップルが返すべきは、反論ではなく距離を測る態度でした。

しかし彼女は、拒絶の言葉に対して「あなたのほうが説明不足でしょう?」と、感情をぶつけ返してしまう。

その瞬間、対話は完全に崩壊します。

善意の正論は、ときに最も相手を傷つける

みなもは正しいと思ったことを素直に行動するタイプです。

だからこそ、今回の怒りの返しも本人の中では「対話しようとしているのに伝えてくれないのは不公平」という正義感から来ています。

しかし、正論はしばしば対話の終点であり、心を閉ざす言葉です。

実際、リップルの「正論」はピュリティの怒りを直撃し、状況を悪化させただけでした。

ネット上では彼女の言葉を「よくぞ言った」と評価する声もありますが、「正しさ」と「相手の気持ちへの寄り添い」は別物です。

みなもが今回ぶつけたのは、後者を欠いた前者でした。

「善良な傲慢」が生んだすれ違い

みなもは善意で動いています。

しかしその善意は、

  • 相手の立場を想像しない
  • 拒絶の意味を読み取れない
  • 自分の善意を相手にも共有させようとする

という「善良な傲慢」を含んでいます。

今回の衝突は、その無自覚な傲慢さが引き起こした悲しい出来事でした。

対話したいと願ったはずの彼女が、最も対話を拒絶する言葉を相手に返してしまった――

第33話はそんな皮肉を描いたエピソードだったのです。

りりはなぜ拒絶するのか|「何も知らないくせに」の本音

りりがみなもを強く拒絶した理由は、単なる性格の不一致ではありません。

むしろ逆で、みなもの「善意」そのものが、りりにとっては最も痛いところを突くからです。

みなもは相手を信じ、応援し、救いたいと思う――その姿勢は本来なら尊いはず。

しかしみなもからすると、その「純粋さ」はあまりにもまぶしく、そして乱暴です。

りりの過去を踏まえるなら、なおさらみなもは「最も接したくないタイプ」になってしまう。

正義や善意を標榜する存在を前にすると、どうしても自分の傷が浮き彫りになってしまうからです。

トラウマに触れられたくない防衛本能

りりが「何も知らないくせに」と口にするときは、「近づくな」「関わるな」という以上に、自分のトラウマをこれ以上掘り返されたくないという本能的な拒絶を示しています。

みなものコミュニケーションは、善意が100%でできている反面、相手の領域にズカズカ踏み込んでしまう「善良な傲慢さ」がある。

頑張っている人を応援するのが好きというみなもの信条は、りりのように「触れられたくない過去を抱える相手」には、ときに刃になります。

りりはそれを本能で察知している。

対話に応じれば、みなもは「なんとか理解しよう」としてしまい、その過程でりりの心の傷を容赦なく触ってしまう――

その未来が簡単に想像できるからこそ、激しい拒絶になるのです。

「善意」はりりにとって脅威

りりにとって恐ろしいのは、みなもが悪意ではなく「善意」で動いていることです。

悪意なら怒りで跳ね返せる。

けれど善意は、否定すれば自分が悪者になる構造を持っている。

りりが見せてきた拒絶は、「自分を守るためには、善意こそ最も切り捨てるべきもの」という価値観に裏打ちされています。

「無邪気な良い子に救われるほど安いものじゃなかったんだよ」という、りりの過去から滲む重さがあるのです。

りりの「守ってくれるなら」の叫びを読み解く

ねえ!教えてくださいよプリンセス!私が悲しい思いをしないように守ってくれるんなら!なんであの時、あの子を……トーマを助けてくれなかったの!?

引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第33話

というりりの叫びは、表面上はプリンセスに向けた無理難題のように見えます。

しかし、実際には「こっちはすでに悲しい思いをしている。出来もしないことを言うな」という怒りが根底にあります。

リップルの長台詞と守る対象のズレ

33話のリップルの長台詞をあらためて聞くと、依然として守る対象は「女の子」に集中しています。

アリスピアはさ、本当に、夢の国みたいだよね。ここは、女の子が望むことを、すべて叶えてくれる。女の子の楽しい、嬉しいがミューチカラになって、アリスピアの元気のもとになる。それを、心から喜んでくれる。わたし、そんなこの世界が大好き。だから、悲しい思いを生むすべてから守りたい。もしりりちゃんが悲しんでいるなら、あなたも守りたい! 分かってもらえないかな?

引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第33話

「心から喜んでくれる」の部分にアリスピアンも含まれる余地はあるものの、文全体の焦点はあくまで女の子の楽しさ・嬉しさです。

32話でのピュリティの「プリンセスはアリスピアも、そこに生きるアリスピアンたちも守るのが使命なんですよね?」という問いかけに対する回答としては、あまりにもズレています。

つまり、ここでもまた、リップルが受け手の視点を十分に想像できていないことが露呈しているのです。

すみれの「私はお姉ちゃんなんだから」問題

33話で、すみれはかがりと図書館で遭遇した際に、心苦しさと使命感の板挟みを語ります。

「本音を言うと、私だって、あなたたちと戦いたくないです。かわいい後輩ですものね。それに、強すぎるミューチカラを弱めるためだとしても、女の子たちに恐い思いをさせるのはつらい……」

引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第33話

けれど、守りたい大切な人がいるから、私は自分の心にさえ抗わないとならないんです

引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第33話

さらに、かがりが立ち去ったあと、苦しげに「だって、私はお姉ちゃんなんだから」と呟きます。

この独白から分かるのは、すみれが自分の心情よりも「姉」という役割を優先せざるを得ない状況にあるということです。

「姉という役割を自分に言い聞かせる」構造

今回のすみれの描写を踏まえると、彼女は本心では嫌々ながらも、姉としての責任を自分に強制することで心を保っています。つまり、

  • 本心ではムリをしている
  • 「りりを守らなければ」という役割意識で感情を蓋している
  • その結果、やりたくない行動でも遂行する

という構造です。

この責任感は、罪悪感・恐怖・無力感と混ざり合い、精神的な重石になっています。

プリンセスへの事情説明は、心の限界点に達しての告白

すみれがプリンセスたちに自らの事情を話そうとした行動は、単なる白の女王への反逆ではありませんでした。

むしろ、これまで自分の心に押し込めてきた葛藤や罪悪感、無力感が積み重なり、耐えられなくなった結果の行動です。

これまでのすみれは、心の中で「私はお姉ちゃんなんだから」と自らに言い聞かせ、やりたくないことやつらい行動を姉として遂行してきました。

しかし、プリンセスとの対立や白の女王への不信感の中で、抑え込んでいた思いが限界に達します。

そのため、プリンセスに敗北を喫したこと、妹が涙ながらに走り去ってしまったことを口実に、事情を打ち明けざるを得なかったのです。

つまり、プリンセスへの説明は、心のキャパシティを超えてしまった結果の告白であり、もはや抑えることのできない行動でした。

まとめ|風花姉妹の心理と対話の行方

第33話では、プリンセスたちとピュリティの間にある「正義や善意のすれ違い」があらめて浮き彫りになりました。

リップルの善意は、相手の立場や心情を十分に理解できていないため、逆にピュリティの怒りを引き出してしまいます。

また、すみれは「私はお姉ちゃんなんだから」という役割意識に縛られ、本心を押し殺したまま行動しており、プリンセスへの事情説明は心の限界点に達した結果の告白でした。

りりの拒絶や怒りも、これまでの経験や悲しみが背景にあり、単なる逆切れではありません。

全体を通して、キャラクター同士の心の距離感や葛藤が丁寧に描かれた心理劇となっています。

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