公開日:2024年10月9日
2024年9月4日に第2巻が発売された『ゴーストフィクサーズ』は、アニメ化もされた『サマータイムレンダ』の作者である田中靖規先生の最新作。
架空のニュータウン「御厨ヶ丘」を舞台に、非現実的事象【GHOST】との戦いを描いた作品です。
『サマータイムレンダ』で見せた怪異表現はそのままに、『瞳のカトブレパス』『鍵人』のような少年漫画に回帰した作風となっています。
当記事では『ゴーストフィクサーズ』のレビューのほか、キャラクター解説や前作との繋がりなども解説。
参考になれば幸いです。
- 第3巻
- 第2巻
- 第1巻
ゴーストフィクサーズの世界観|現実と非現実の交錯
物語の舞台である御厨ヶ丘ニュータウンは、7年前に発生した「ファフロツキーズ」と呼ばれる超常現象が原因で、非現実的事象【GHOST】が蔓延る街と化しました。
「校正機構」の校正官である籠目ひふみと雲母坂最果のコンビは、反発しながらも住民たち――ひいては世界を守るため、GHOSTに立ち向かいます。
「非現実校正アクション」と銘打たれたこの作品は、現実と非現実の交錯が生み出す不穏さが、ほかの退魔もの少年漫画にはない魅力です。
リアリティレベルの揺らぎ
インターネットで検索すれば、サジェストキーワードのトップに「ゴーストタウン」が表示される御厨ヶ丘ニュータウン。
ですが、そこには人の営みがあり、日常が存在します。
マンション、公園、学校、河川敷、ファミレス……。一見何の変哲もない街並みですが、いたるところに設置されているシス値を測定する装置が異質です。
シス値とは現実のリアリティレベルを表す値のこと。
通常は1前後で、0以下になると、非現実的事象であるGHOSTによる現実改変が発生します。
このリアリティレベルの揺らぎは、世界観設定にとどまらずアートスタイルにも表れています。
『ゴーストフィクサーズ』の背景画は、加工された写真が多用されているのが特徴です。
そのため、キャラクターと背景のリアリティレベルに差が生じ、それが独特の不穏な雰囲気を醸し出しています。
現実の強度が日々変化する御厨ヶ丘ニュータウンは、GHOSTのみならず、私たちが住まう「現実」も入り混じる異界と化しているのです。
メタフィクションとしての側面
メタフィクションとは、フィクション作品の中で、その作品自体が「フィクションであること」を自覚的に示す技法のこと。
登場人物や語り手が「自分たちは作中のキャラクターである」と気づいたり、物語の進行中にそのフィクション性について言及したりするような演出が該当します。
フィクションと現実の境界を意図的に曖昧にすることで、読者に「物語とは何か?」を再考させます。
『ゴーストフィクサーズ』は、登場人物たちのどこかメタ的な言動も特徴です。
たとえば、最果の「校正官になれるのは少年漫画の主人公みたいなやつだけ」や、ひふみの「死ぬわけねーだろ主人公が」という台詞。
そして、雨宮博士の「現実では毒でも非現実では望まれることもある」「みんな自分の範囲に害の及ばない限り――毒はエンタメになる」。
雨宮博士は、ニュータウンの外ではGHOSTや校正機構が、非現実のエンタメとして消費されていることに自覚的です。
また、校正機構も動画投稿サイトに公式チャンネルを開設しており、エンタメとして振る舞うことで、大衆の関心をコントロールしている可能性もあります。
これは、メタフィクションの技法――物語の登場人物が自らをフィクションだと自覚しつつ、現実に干渉する――と同じ構図です。
この作品を読み終えた後、私たちもまた、非現実による現実改変を受けているのかもしれません。
ひふみの性別は? ゴーストフィクサーズのキャラクター解説
ここからは、ゴーストフィクサーズの主要キャラクター3人について簡単に解説します。
籠目ひふみ
御厨ヶ丘ニュータウンで生まれ育った中学2年生の少年で、校正機関の校正官。
親しい人からは「ひふみん」と呼ばれています。
- ボーイッシュな少女のような容姿
- 中性的な名前
- スカートを穿いている(ボンテージパンツの付属品)
- トイレ(小)の際に便器に腰を下ろしている
などの要素から性別論争が起きていますが、作中では男子として扱われていますし、喉仏があるのでひふみんはおとこのこです(断言)。
「逃げない」が信条で、どんな窮地でも決して退くことはなく、危険を顧みず突き進む。
そのため、最果からは「脳筋」扱いされています。
余所者への警戒心か、新入りへの対抗心か、それとも自分の立場が脅かされる危機感か。
最果に対してつっけんどんな態度を取りがちで、先輩風を吹かせてマウントを取ろうとすることも。
雲母坂最果(きららざかもか)
東京から御厨ヶ丘ニュータウンに呼び寄せられた少女。
引っ越し早々GHOSTの現実改変に巻き込まれ、その流れでひふみんとコンビを組むことに。
快活でコミュニケーション能力が高く、ひふみんとの友人たちとすぐに打ち解けます。
勝気な性格で「負けない」を信条としていますが、「負けたら意味がない」とも考えているため、ひふみんよりは慎重派。
GHOSTに突っ込んでいくひふみんの制止役になりがちです(制止できるとは言ってない)。
最果の実家、雲母坂家は皇室直属の神官の家系で、本来ならどんなことがあっても東京からは離れることができません。
最果は御厨ヶ丘に来た理由を「世界を救うために決まってんじゃん!」と言いますが――
- 瞬間移動ができる?
- ゼッタイキル剣では斬れない?
- 停止した時間の中で動ける
- 納豆を知らないが百人一首は知っている
- 吸血鬼の少女に血の匂いが染みついていると言われる
など、謎が多く、本当はいつどこから来たのか分かりません。
雨宮礼一郎
とっとと2巻まで読んでくださいお願いします。
できればカラー完全収録な電子版か、ジャンプ+アプリで読んでください!!!!
雨宮博士は、ひふみんと最果の「教育官」で、最果を御厨ヶ丘ニュータウンに呼び寄せた張本人。
フレンドリーかつ飄々とした態度なためか、ひふみんと最果からは呼び捨てタメ口で接せられています。
縁日で売られているような女児向けアニメのお面を常に被っており、その素顔は不明……と思いきや、あっさり露わに。
口元に蛇の牙めいた傷があるスプリットタン(青)のイケボのイケオジとか、こんなのテストに出ないよお……。
アニメ化の際はCV:津田健次郎でお願いします。
『ゴーストフィクサーズ』はジャンプ+(金曜日)での掲載順位が低迷していたのですが、雨宮博士の素顔開示以降、急上昇。
やっぱりイケオジは正義だなと思いました(話が本格的に動き出したのもあるけど)。
校正官のプライマリとセカンダリ
校正官は「プライマリ」と「セカンダリ」のふたつの武器でGHOSTと戦います。
この項目では、プライマリとセカンダリについて簡単に解説します。
プライマリとは
プライマリは、校正官自身が持つ現実改変能力のことです。
たとえば、ひふみんのプライマリは、自身の肉体強度を改変する「鋼の体」と、それに付随するパッシブスキル「達磨鋼」。
雨宮博士は、会話に「地雷ワード」を埋め込み、踏んだものを爆破する「言葉は地雷(ワードイズマイン)」を持っています。
校正官もGHOSTと同じく現実改変者であり、両者の違いは人類の敵か否かのみです。
最果のプライマリは未だ(執筆時点では)謎に満ちています。
セカンダリとは
セカンダリは、サブウェポンとして携行が認められているGHOSTのこと。
単行本のカバーイラストで、ひふみんと最果が手にしている得物がそうです。
ひふみんのセカンダリは、刀身に「ゼッタイキル」と書かれたプラスチック製のおもちゃの刀「ゼッタイキル剣」。
名前のとおり、ありとあらゆるものを切り裂きます。
最果のセカンダリは、弾が尽きることがない(4秒ごとに4秒前に戻る)サブマシンガン「無限弾」。
そして、なんでも収納できて、収納時の状態をずっと維持できるアタッシュケース「ガルガンチュアの胃袋」のふたつです。
最果いわく「ばあちゃんの私物」とのこと。
なお、ガルガンチュアの胃袋は、タランティーノ監督の映画『パルプ・フィクション』の小道具という設定です。
この映画は時系列がシャッフルされたオムニバス作品で、最後のエピソードが映画冒頭に繋がる構成になっています。
また、タイトルになっているパルプ・フィクションとは、低俗で粗悪な読み捨て雑誌に掲載されていた三文小説のこと。
これもなかなか意味深長です。
前作『サマータイムレンダ』との繋がり
同じ世界線なのか、並行世界なのか、それともスターシステムなのか。
『ゴーストフィクサーズ』は、前作のキャラクターと思しき影が見え隠れしています。
この項目では、『サマータイムレンダ』『瞳のカトブレパス』のキャラクターらしき人物に焦点を当てていきます。
「ミナカタスケール」提唱者の南方博士とは?
「ミナカタスケール」とは、GHOSTの危険性を示す尺度です。
カテゴリー1から5まであり、カテゴリー5は「世界の終わり」または「人類の終末」を引き起こすリスクのあるGHOSTが分類されます。
前作『サマータイムレンダ』をご存じの方は「ミナカタ」にピンとくる方が多いことでしょう。
ミナカタスケールの提唱者は、世界的な形而上物理学者である南方博士です。
この南方博士は、スピンオフ『サマータイムレンダ 2026』のメインキャラクター、南方波稲だと思われます。
波稲は、齢十六にして飛び級で東大に入学する天才少女。伯母で小説家の南方ひづると共に怪事件を解決します。
- 漫画
- 小説
- サマータイムレンダ
『ゴーストフィクサーズ』の第1話冒頭で、波稲とひづるっぽいシルエットが描かれているので、ほぼ確定でしょう。
2024年11月22日追記
第28話にて、ついに南雲竜之介先生が本編に登場!!!!
南雲竜之介は、上述の南方ひづるのペンネーム。現時点では本名が明かされていないため、ここでは南雲先生と記載します。
ゴーストフィクサーズと同じ世界線だとしたら、サマータイムレンダから16年、スピンオフから8年経過しているにも関わらず、彼女の容姿はほとんど変化なし。
アートスタイルの変化もあるのか、むしろスピンオフの頃より若返ってない?
唐突に挟まるゆっくり解説よると、GHOSTや校正官、プライマリ、セカンダリといった校正機構で用いられている専門用語はすべて南雲先生が考えたとのこと。
……あれ? じゃあ第1話のナレーションって?
第1話冒頭のナレーションで「私がGHOSTと名付けた」とありますが、語り部は「ですます調」。
南雲先生なら「である調」になりそうなものですが。
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志村先生は『瞳のカトブレパス』の主人公?
ひふみんと最果が通う中学校の担任である「志村先生」。
ボサボサの髪にオッドアイと、その容姿は『瞳のカトブレパス』の主人公、志村時生を彷彿とさせます。
志村先生は3話以降姿を見せていませんが、20話での校正機構のビデオ会議に「志村時生」名義で参加していた形跡があります。
『瞳のカトブレパス』は田中靖規先生の初連載作で、古都「K都」を舞台に、時を止める力を持った少年・志村時生が人を食らう祅魔と戦うというストーリー。
同名の読切作品がベースとなっています。
連載当時は気づきませんでしたが、いま見ると確かにめっちゃジョジョだ……(田中先生は荒木先生の元アシスタント)。
時生は1991年生まれのため、『ゴーストフィクサーズ』の劇中では43歳となるはずですが、どう見ても40代には見えません。
カトブレパスの影響で老化が遅いのか、それとも同姓同名で同じ容姿の別キャラクターなのか……。
そもそも、ちょっとしたファンサービスであって、波稲も志村先生も本編にほとんど絡まない可能性もあるのですが。
本編で活躍する機会はあるのでしょうか。
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ゴーストフィクサーズとSCP財団との関係は?
明言はされていないものの、『ゴーストフィクサーズ』は、『SCP財団』からインスパイアを受けている作品です。
SCP財団とは?
『SCP財団』とは、共同怪奇創作コミュニティサイトであり、作品内に登場する、怪異を「確保」「収容」「保護」する組織の名称のこと。
コンテンツを指すときは「SCP」、作中の組織を指すときは「財団」と使い分けられています。
アメリカの大手匿名掲示板サイトに投稿された作品から創作の輪が広がり続け、現在ではさまざまな言語圏に支部が存在します。
多くの作品が財団の報告書という体裁で執筆されているのが特徴です。
「収容」「現実改変」といった単語・語句や、「リアリティレベルを表す値」「怪異の脅威を表す指標」「他者に自分の人格を移すアイテム」といった設定は、SCPとの類似性が見られます。
この「SCPっぽさ」は、おおむね好意的に受け取られているものの、快く思っていないSCPファンの声も見かけました。
私はSCPについては詳しくないため、盗作になるほど似ているかどうかは分かりません。分からんのかい。
いや、だって著作権者と司法が判断することですし……。
ただ、アイデアに著作権はないので、アイデアに付随する名称やデザイン、ストーリーが異なるなら問題はない、と私は考えます。
まとめ
『ゴーストフィクサーズ』は、現実と非現実が曖昧に交錯する独特な世界に引き込まれる作品です。
キャラクターひとりひとりが魅力的で、ひふみんと最果のケンカコンビが反発しつつも少しずつ認め合う姿は微笑ましく感じました。
あと雨宮博士のご尊顔の破壊力がすさまじいので、ホントそこだけでいいんで読んでください。
また、メタフィクション的な要素も、この作品をただのアクションものに留めない要素のひとつ。
キャラクターがフィクションを意識した言動をするたび、意味深長に感じます。
また、過去作の『サマータイムレンダ』や『瞳のカトブレパス』を想起させる要素には、驚きと興奮を隠せません。
もちろん、過去作を知らなくても十分に楽しめます。
『ゴーストフィクサーズ』の第3巻は2024年12月4日発売予定。追いつくならいまがチャンスです。
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