問いかけと否定、罪悪感と拒絶。
第21話は、言葉を交わしながらもすれ違いばかりが積み重なっていく回でした。
ドランが突きつけた言葉はみなもの心を一瞬揺さぶりますが、仲間たちの反論によってすぐに押し流されてしまいます。
やがて明かされる衝撃の告白と、それでも埋まらない断絶。
戦闘シーンは控えめながらも、対話を通じて浮かび上がる「分かり合えなさ」が印象的な回でした。
ドランが突きつけた問いと、その結末
第21話の中心に据えられていたのは、ドランとプリンセスたちの対話でした。
戦闘の前にじっくりと言葉を交わす展開は、この作品でも珍しいものです。
ドランが投げかけた問いは、アリスピアと人間の少女たちの関係そのものを揺さぶる鋭いものでした。
みなもたちがどう応え、そしてなぜ分かり合えなかったのか──そのやり取りの中に物語の核心が見えてきます。
ここでは、揺さぶりから告白、そして決定的な断絶に至るまでを振り返っていきます。
ドランの揺さぶりと、みなもの罪悪感
ドランがみなもに投げかけたのは、「本当にアリスピアを歪めているのはお前たちなんじゃないのか?」という挑発的な言葉でした。
ここで言う「お前たち」とは、プリンセスに限らず、みなもを含むアリスピアにやって来る女の子全体を指しています。
アリスピアンの憧れや日常を一身に引き受ける立場にいることが、むしろ世界の均衡を崩しているのではないか──
そんな告発を突きつけられ、みなもは言葉を失ってしまいます。
彼女の中には「自分の楽しみが誰かの負担になっているのかもしれない」という、罪悪感の芽が確かに生まれていました。
しかし、その一瞬をかき消したのがナビーユの叫びです。
ぼくたちはみんなあっちの世界の人たちが大好きだよ! そうでなきゃ一緒にいるわけがない! 憧れもするしかけがえのない友達だと思ってる!
引用元:『プリンセッション・オーケストラ』第21話
その真っ直ぐな言葉に救われ、みなもは安堵の表情を浮かべます。
けれども、ドランはすぐに「つくづくお前らにとっちゃありがたい存在だなあ。アリスピアンってのは」と揶揄しました。
ナビーユの言葉でみなもの罪悪感が消えたのを見抜いたうえで、「結局アリスピアンは、人間の少女にとって都合のいい存在として扱われるのだ」と皮肉を返したのです。
かがりの突き放しと「分かりあえなさ」の芽生え
ここでながせとかがりが割って入りました。
ながせは「どっから目線で言ってんの!」と怒りをぶつけ、かがりは冷静に「混乱を招いているのはあなたたちの方」と断じます。
このやり取りによって、みなもの中にあった罪悪感は完全に押し流されます。
プリンセスたちは自分たちの感覚を信じ、ドランの言葉を「敵の理屈」として退けたからです。
ただし、かがりの冷徹な突き放しは、ドランにとって決定的な拒絶でもありました。
彼の揺さぶりは、罪悪感を生み出すことには成功しても、すぐに仲間たちの反論によって無効化されてしまう。
その瞬間、プリンセスたちとの間に「分かりあえなさ」が立ち上がり、やがてドランの告白へとつながっていくのだと思います。
元アリスピアンの告白と、対立の深まり
かがりに「混乱を招いているのはあなたたち」と突き放されたドランは、ここで衝撃的な事実を明かします。
「俺たちはアリスピアンだ」
敵として立ちはだかってきた彼ら自身が、かつてはアリスピアに暮らしていた存在だったのです。
その告白に、ながせやかがりは矛盾を突かずにはいられません。
「元アリスピアンでありながら、なぜ世界を脅かすのか」という問いかけが鋭く重なり、対立は一層深まっていきます。
やがてドランは「これからのアリスピアは強いやつしか生き残れない」と断言し、みなもは「そんな世界を皆が望んでいると思ってるんですか!?」と即座に反論しました。
ドランの揺さぶりの意図は?
では、なぜドランはあえてこうした揺さぶりをかけたのでしょうか。
和解を望んでいるわけでも、仲間に引き入れたいわけでもありません。
それでも問いを投げかけたのは、「自分の頭で考えてほしい」という期待があったからではないでしょうか。
ドランは自分の事情を一から十まで説明することをしません。
それは「詳らかにしないと理解できないと言うのなら、それは最初から考える気がないのと同義」という不信感からかもしれませんし、あるいはその労力を割く気がなかったのかもしれません。
だからこそ、断片的で挑発的な言葉を繰り返し投げ、相手がどう反応するのかを見極めようとしたのでしょう。
彼の皮肉の裏には、「どこまで慮れるのか」を試すような思惑が透けて見えます。
この視点で見直すと、みなもの即答は彼にとって「問いを吟味せず否定した」ように映ったはずです。
だからこそ「まあ、俺たちが分かりあえるはずないか」という失望の台詞へと直結していったのでしょう。
戦闘シーンに潜む問いかけ
この「即答」の姿勢は、戦闘シーンでも繰り返されます。
リップルが必殺技を放った際、ドラムは「今度はその力でアリスピアを引っ掻き回す気かい?」と問いかけました。
これに対してリップルは「違います!私たちのこの力は、アリスピアを守る力です!」と即答します。
もちろんその言葉は彼女の正義を表すものですが、同時に「自分たちの力は絶対に誰も傷つけない」という前提に立った答えでもあります。
意地の悪い見方をすれば、ここにも「考えるより先に否定する」プリンセス側の姿勢が透けて見えるのです。
こうして見ると、ドランとプリンセスたちが分かり合えなかったのは、どちらかが間違っていたからではなく、「問いにどう向き合うか」の姿勢そのものが噛み合わなかったからだといえるでしょう。
ドランの郷愁|過去と絆に縛られた男
ドランの語り口や行動原理を追っていくと、彼を貫いているのは「過去への郷愁」だと見えてきます。
13話で彼は「変わっちまったな。俺たちバンド・スナッチも。あの人も」と呟きました。
これは過去を懐かしむだけでなく、「かつての自分たち」「かつての赤の女王」との断絶を痛感する言葉です。
ドランにとって過去は単なる思い出ではなく、今もなお自分を支え、同時に縛り続ける生々しい基盤なのです。
赤の女王との時間が残したもの
まあ、見ていてくれ、赤の女王#プリオケ pic.twitter.com/1547qamPt3
— 「プリンセッション・オーケストラ」公式 (プリオケ) (@priorche_info) September 2, 2025
その象徴が「生きる力を与えてくれた」という言葉です。
単に超常の力を授かっただけでなく、赤の女王との出会いは、生活の技術や歌や音楽と言った文化的な習慣を共有した時間として響いているのでしょう。
ドランの特技である「ドラムスティックでの編み物」も、変わってしまう前の女王――かつて少女だったであろう――から教わった可能性があります。
たとえば、かえでとドドメさんのような関係です。
そう考えると、彼の「恩義」は信仰や従属ではなく、共に過ごした時間への感謝と帰属意識に近いものだと言えるでしょう。
恩義が縛りへと変わるとき
ただし「絆」という言葉が示すとおり、それは同時に縛りでもあります。
救ってくれた存在への親愛の情は、いまや「恩に報いるために犠牲を厭わない」という論理にまで膨らみ、ドランを暴力へと駆り立てています。
かつての少女との関係が温かな記憶であるほど、それを裏切ることができない。
だからこそ彼は、いま目の前で人間の少女に正論を突きつけられても、すぐには揺らがない。
むしろ「俺たちが分かりあえるはずがない」と腹をくくるのです。
現在を直視できない弱さ
ドランの郷愁は、彼を人間味のあるキャラクターにしていると同時に、現在を直視できなくする呪縛でもあります。
その脆さが一瞬だけ「傷ついたような表情」として表に出たのは、過去の自分を軸にしているからこそ、現在の問いかけに対応する力を持ち合わせていない証拠なのかもしれません。
まとめ
第21話は、戦闘以上に「言葉の応酬」が物語を動かす回でした。
ドランの問いかけはみなもたちを揺さぶりながらも、結局は「分かり合えなさ」を浮き彫りにします。
対話はすれ違いに終わったものの、そこにこそ彼らの立場や価値観の違いがくっきりと刻まれています。
次回以降、この断絶がどのような展開を呼び込むのか、引き続き目が離せません。
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